例えば皆さんが入院中に、看護学生から「洗髪をさせてください」「採血をさせてください」と言われたら、すんなりYESといえますか?やはり、多くの方は「えっ」と一瞬と惑うのではないでしょうか。資格も持っていない、実技のレベルがどれほどかもわからない、学生の実験台になりたくないというのは本音でしょう。学校では一応、必要な項目に関しては筆記テストと実技テストの両方をおこなうことになっています。実技テストが必要なのは主に基礎看護学の分野で、洗髪や清拭、排泄やベッドメーキング、血圧測定や注射、導尿などです。実技テストでは、安全に配慮し効率的な動きができているか、患者への負担が最小限にできているか、などが問われます。教官が立会い、別の学生を患者に見立てて模擬的な形式で行われます。時にはダミー人形のような模型を使ってテストすることもあり、真剣な表情で人形に話しかける学生、それを怖い顔で見つめる教官という、若干異様な雰囲気が漂うのも看護学校にはよくある風景です。
こうしたテストで技術が合格となることで、実際に実習で患者さんの援助が行えるのかというと、やはり違うのです。回数をこなしてこそ身についていくものであるため、患者さんには援助を「お願いして」させてもらっていることになります。実際、看護協会の調べによれば、看護学校での基礎教育の終了時点・すなわち卒業時の学生の技術力では、新卒の看護師として現場で求められている水準には到底達していないことが明らかになっています。これは事故の原因ともなり得るし、新卒看護師の早期離職につながり、ひいては看護師不足に拍車をかける結果を招いているのではという声も上がっています。学生に十分な実技を身につけさせ、自信を持って社会に送り出すには、実技テストに合格したレベルでは不十分だということは明らかです。そしてこれは学校側の課題でもあり、義務だと思います。筆記テストのように学生個人の努力ではカバーできない部分が多く、実習の技術面での充実なども視野に入れた見直しが必要ではないでしょうか。また、基礎教育期間の延長やカリキュラムの変更はやむをえないことかもしれません。
薬剤師も6年教育に変更となり、多くの医療従事者の資格を得るための教育課程が見直される中、看護師だけは50年あまり変わってきていないといいます。これは高度な医療、先進医療を謳うわが国において見直すべき問題といえるでしょう。新卒の看護師が自信を持って臨床で働くことができ、その後長く経験を積んで自分の技術を後輩に十分教えられるシステムが理想的です。余裕のない看護学生生活、看護師不足、看護師の医療事故など、諸問題はこのようにループしているようにさえ思われます。基礎を見直し看護師育成に力を入れることは、これらの問題解決の核となる気がします。近い将来、看護教育の4年制大学への移行が見直される日が来るかもしれません。
看護師になるためのスタンダードなコースは、高校を卒業後看護学校に入学し、3年教育を経て国家試験に合格、というものです。今でこそ看護大学も多くなり、大卒の看護師も増えてきましたが、まだまだ看護学校のほうが学生数も多く、主流であるといえます。大学と看護学校の大きな違い、それは時間の使い方にあると思われます。本来看護学校の3年間で履修すべき科目は、4年間かけて学んでちょうど良いとさえいわれます。それを凝縮した形での教育システムとなるため、どうしても詰まったカリキュラムになってしまうのです。時間の余裕を重視して、楽しいキャンパスライフを体験したいと考える方は、大学への入学をお勧めします。
また、看護学校の多くは病院の付属機関として設置されたものが多く、それによる多数の恩恵を受けることができます。まず、多くの場合隣接の病院から臨床で実際に働く医師や看護師が、講師として実際に教鞭を取ってくれます。そのため院内のハード面の情報などが講義に反映されやすく、実習での活用に役立ちます。遠くから出向いてくれる講師に比べ、質問しやすく身近に感じられますね。また学生にとって重要な実習に関しては、ローテーション制で各科をくまなく回ることができますし、不足した項目に関しては他院との連携で実習を受けてもらえます。付属の学校でなければこのような実習の充実はありえないかもしれません。
多くの学校には寮があり、門限や寮則などの厳しい決まりごとはありますが、多数の学生の集まる環境は勉学にとってプラスになることが多いでしょう。ライバル感も適度にありながら、協力体制も望めます。互いに励ましあい、辛いことを乗り越えていった繋がりは、社会人になっても良好な友人関係でいられることでしょう。寮生もそうでなくても、イベントや様々な行事には一致団結する絆も見られます。これは皆が「看護師になること」という最終目標が共通しているからに他ならないと思います。
実習以外の大まかな授業内容は、国試の出題範囲にある分野と、英語や中国語もあります。国際化社会の世の中で外国人患者は割と多く、患者さんとのコミュニケーションをとるためには言語の理解は基本です。やはり英語はかかせないのですが、看護学校では状況英語など、実用的な内容を教わることができます。英語の次に人口が多いとして中国語を取り入れている学校は多いようです。他にも、看護師はパソコンを使えて当然という考え方もあるように、パソコンの基本知識を学ぶ機会も設けてあります。
勉強、勉強の3年間。それでも、卒業して看護師として働いていると、学生時代に培った知識は実用できるものが多く、割りに覚えているものなのです。大変ですが、それなりに楽しく充実した日々を送ることができますよ。